無痛分娩の割合は?世界の実態や日本で普及しない理由を解説
麻酔を用いて出産時の痛みを緩和する無痛分娩。近年では、無痛分娩での出産を希望する方が増えています。
また、認知度と関心度も高まっており、興味を持つ方も増加傾向にあります。
需要が高まっている無痛分娩ですが、実際の割合が気になるという方もいるのではないでしょうか。
海外と比べると日本の無痛分娩の割合はまだ低く、普及していないのが現状です。この記事では、無痛分娩の割合と世界の実態、日本で普及しない理由を詳しく解説します。
初めて出産される方や出産方法に迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
無痛分娩とは
無痛分娩とは、麻酔を使用して出産時の痛みを緩和する出産方法です。
「無痛」という名前から、完全に無痛・無感覚の出産と想像される方が多いですが、実際はそうではありません。
無痛分娩は全身麻酔ではなく、下半身にのみ麻酔をかけます。
そのため、意識をしっかり保ったまま出産に臨むことができ、生まれた直後の赤ちゃんを抱っこしたり授乳したりすることが可能です。
完全に無痛にしない主な理由として、出産時は適切なタイミングでいきむ必要がある点が挙げられます。
身体の感覚が完全になくなってしまった場合は、赤ちゃんが移動する感覚やお腹の張りを認識することができず、結果的に分娩時間の長期化を招く可能性があります。
こういった理由から、無痛分娩は意図的にある程度の感覚や痛みを残すことが一般的です。
しかし、麻酔の効果は個人差が大きいものであり、中にはまったく痛みを感じずに出産を終える方もいます。
無痛分娩の効果は一人ひとり異なるため、全員が同じ体験をするとは限りません。
無痛分娩の割合
無痛分娩に興味がある方であれば、日本での実施割合が気になるのではないでしょうか。結論からいうと、日本での無痛分娩の割合は非常に低いです。
2020年4月に厚生労働省より発表された『令和2年医療施設調査・病院報告の概況』によると、日本全体での無痛分娩の割合はわずか8.6%という調査結果がでました。
無痛分娩の認知度や関心度は少しずつではありますが増加しています。しかし、実際に実施されることは少ない傾向にあるのが現実です。
世界の無痛分娩の実態
日本とは対照的に、欧米諸国では無痛分娩の割合が高い傾向にあります。アメリカは7割以上、フランスは8割以上と高い割合で無痛分娩が行われています。
割合が多い理由として、無痛分娩が医療保険の適用となっており自己負担なしで選択できる点が挙げられます。
日本では無痛分娩や麻酔に必要な費用は自己負担である場合が多く、金額も決して安くはありません。
また、アメリカやフランスでは出産費用が社会保険の適用になっていることから、出産後の入院期間が短い傾向にあります。
そのため、出産の当日や翌日に退院することも珍しくありません。
無痛分娩は出産後の体力回復が比較的早い特徴があるため、アメリカやフランスでの割合が高くなっている理由と考えられます。
日本で無痛分娩が普及しない理由
ここまでの解説からわかるように日本と世界を比べた場合、無痛分娩の割合に圧倒的な差があります。
アメリカやヨーロッパでは普及しているのに、なぜ日本だけ普及率が低いのでしょうか。
ここでは、無痛分娩が日本で普及しない理由を3つ紹介します。
思い込み
日本で無痛分娩が普及しない理由として、思い込みが挙げられます。
日々の生活の中で、一度は「お腹を痛めて生んだ子供だから可愛い」というフレーズを耳にしたことがあるのではないでしょうか。
このフレーズを真に受けるとしたら、お腹を痛めずに生んだ子供は可愛くないという意味で受け取ることもできます。
無痛分娩の性質上、痛みを可能な限り抑えて出産します。
そのため、無痛分娩で出産した子供には愛情が湧かないという思い込みが生まれてしまうわけです。
また、帝王切開で出産された方も陣痛を体験せずに終わってしまうケースがあります。
しかし、帝王切開で出産を経験された方が皆育児放棄をしているわけではありません。一度立ち止まって冷静に考えれば、この理屈が現実的でないことはわかります。
とはいえ、こういった考えを持っている方が一定数いることは事実であり、無痛分娩の普及を遅らせる原因の1つとなっていると考えられます。
過去の風潮
昭和の時代では、「陣痛の痛みを乗り越えてこそ母親になる資格がある」「赤ちゃんも辛い思いをしているのだから痛みに耐えよう」という考え方が当たり前でした。
こういった考えが広まった要因として時代背景が大きく影響しており、昭和の時代の女性の存在感や自律心を高める動きから生まれたものだと考えられます。
近年ではこういった発言を聞く機会は減りましたが、痛みに耐えることを美学とする風潮はまだ根強く残っており無痛分娩をためらう方が多い原因でもあります。
医療技術は日々進歩しており、現在行われているほとんどの手術が麻酔を使用しています。
麻酔を使用することが当たり前の時代になっているにもかかわらず、出産時の痛みだけは避けてはいけないというのはフェアではありません。
避けられる痛みなら避けたいと考えるのは、人間の当たり前の感情です。
出産は母体だけでなく周囲の家族にとっても特別な体験ですが、常に命がけであることを忘れてはいけません。
出産方法や痛みの度合いではなく、無事に出産を終えて母子ともに健康に生きていくことが何よりも重要です。
無痛分娩に対応する施設の少なさ
無痛分娩が普及しない理由として、対応している施設が少ないことが挙げられます。医療機関にとって、無痛分娩の導入はかなりの負担です。
コスト面の負担はもちろんですが、導入できない主な理由は麻酔科医の不足です。
現状では産科医が麻酔を兼任しているケースが多く、専任の麻酔科医不在の状態で無痛分娩が行われている場合があります。
産科医が麻酔を行うからといって安全性に欠けるわけではありませんが、麻酔業務に加えて麻酔に影響された分娩を管理する役割を担うため、産科医の負担は大きくなります。
麻酔業務はその専門性において麻酔科医が担当することが望ましいですが、現在の日本ではそういった体制を整えることができないのが現状です。
人員不足やコストの問題から無痛分娩の導入を見送る医療機関が多く、普及の低下につながっていると考えられます。
無痛分娩のメリット
無痛分娩は自然分娩にはないメリットが多くあります。メリットをしっかり把握し、自分に合った出産方法か見極めることが大切です。
ここでは、無痛分娩のメリットを3つ紹介します。
痛みの緩和
痛みの緩和は無痛分娩の最大のメリットといえるでしょう。
出産時の痛みは手指を切断した時の痛みと同等と表現されるほど、想像を絶する痛みであることは間違いありません。
痛みに強い不安を感じている方がなんとしても避けたいと思うのは納得ができます。
また、強い痛みは血液の流れを悪くしたり酸素の量を減らしたりする可能性があります。これは赤ちゃんにも影響を及ぼす場合があり、出産中の状態悪化の原因にもなりかねません。
無痛分娩による痛みの緩和は、リラックス効果も期待でき穏やかに出産に臨むことが可能です。
無痛分娩は完全に無痛というわけにはいきませんが、痛みを最小限に抑えつつ出産する時間を得られる数少ない出産方法です。
緊急時にすぐ対応できる
出産は常にリスクと隣り合わせです。分娩中に母体や赤ちゃんの状態が急激に悪化し、緊急帝王切開になることも珍しくありません。
自然分娩時に帝王切開が必要になった場合は、まずは麻酔の準備からはじめなければならないため時間がかかります。
緊急時は1分1秒を争うため、準備に時間がかかっていては重大なトラブルにつながりかねません。
無痛分娩でカテーテルの信頼性が確認できた場合には、そのままカテーテルから麻酔薬を追加し、10分もあればすぐに緊急帝王切開にとりかかれます。
麻酔の準備から始める場合は早くても20分はかかります。この10分の差は非常に大きいです。
ただし、カテーテルの信頼性があるとはいえない場合は、他の麻酔方法への変更を余儀なくされ、その際、麻酔の難易度は上昇します。
帝王切開への移行にあたって麻酔リスクが想定される場合は、あらかじめ高次施設での無痛分娩管理が望まれます。
出産後の回復が早い
出産は体力の消耗が激しいものです。特に自然分娩の場合は、強烈な痛みに耐えながらの出産になります。
そのため、体力を使い果たし出産後は数日間動くことができないケースも珍しくありません。
無痛分娩であれば、痛みは最小限に抑えられるため出産後も体力が残っている可能性が高いです。
生まれた赤ちゃんを抱っこしたり授乳したりすることもでき、出産直後の時間を穏やかに過ごせます。
無痛分娩は体力の回復を早める効果があるわけではありません。
あくまで、痛みを緩和して体力の消耗を防ぐことが主な目的です。
まとめ
この記事では無痛分娩の割合や世界の実態、日本で普及しない理由について解説しました。
無痛分娩を希望する方は徐々に増えており、認知度も以前に比べ増加しました。しかし、日本での無痛分娩の実施率は全体の1割以下であり、まだ少ないのが現状です。
一方で、アメリカやフランスでは7割以上と高い割合で無痛分娩が行われており、日本に比べると圧倒的な差があります。
日本では麻酔科医が不足しており、無痛分娩を導入したくてもできない医療機関が多いです。
今後は無痛分娩を希望する方が増えることが予想され、出産方法を自由に選べる医療体制の構築と意識の変革が必要になります。
『岡村産科婦人科』では、自然分娩から無痛分娩まで幅広い出産方法に対応しています。
初めて出産される方はもちろん、2回目以降の出産をされる方が安心して利用できるよう、無痛分娩に適した設備と人員配置を整えています。
また、万が一円滑に分娩が進まなかった場合は帝王切開や陣痛促進剤の準備もあるため、安心して出産に臨むことが可能です。
出産に対する思いや出産後の方針を丁寧に聞き取り、理想とする「バースプラン」の設計をサポートします。